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漢方医学から見た不眠の原因と効果的な漢方薬について
仕事上のトラブルや人間関係でストレスが溜まってくると、なかなか寝付けなかったり、夜中目覚めてしまったり、などの経験をされた方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
一時的な症状であれば問題ありませんが、眠れない状態が長く続くと肉体的にも精神的にも辛くなってしまいますよね。
この記事では、不眠とはどのようなものなのかを解説し、その後東洋医学で考えられている不眠の原因と、それを改善するために使われる漢方薬をご紹介していきます。
不眠で悩んでいる方だけでなく、なかなか寝付けない方、夜中に目が覚めてしまう方などに読んでいただけたら幸いです。
不眠・不眠症とは
不眠症とは、
- 夜になかなか寝付けない入眠障害
- いったん眠りについたのに、夜間目が覚めやすくなる中途覚醒
- 朝早くに目が覚めてしまう早期覚醒
- 睡眠から目覚めたときに、ぐっすりと寝た感じがしない熟眠障害
以上のような状態が1か月以上続き、日中の意欲低下、集中力の低下、倦怠感などにより社会生活に支障をきたす場合を不眠症と言います。
不眠症は睡眠時間の問題ではなく、日中の社会生活において支障が出ることを問題としています。
ですから、なかなか寝付けなかったり、睡眠が浅かったりしたとしても、日中の生活に支障が出ないのであれば、不眠症とは言いません。
不眠の原因について
不眠の原因として考えられるのが、ストレス、病気、薬の副作用、刺激物の摂取、生活リズムの崩れ、環境など、多岐にわたります。
そのため、日本人を対象とした調査では、5人に1人が何らかの不眠を経験していると回答をしています。また、不眠が長く続くことで「不眠恐怖」が生じ、それによって、さらに不眠が悪化することもあります。
不眠の対策について
不眠に対処する方法として考えられるのが、前述のような不眠恐怖に陥らないためも、リラックスをして睡眠前に副交感神経優位になるような状態にしておくことが理想と言えます。
例えば、ぬるめのお風呂にゆっくりと入ってみたり、深呼吸を行ってみたり、リラックスできるアロマを使ってみたりと、心身の緊張をほぐしておくことをおすすめします。
それに加えて、睡眠のための適切な環境作りも重要です。
具体的には室温を20℃前後に設定し、できれば湿度も40%~70%くらいに保つようにして、安眠できる環境作りを行います。
ただし、不眠の対策を行っても不眠が改善しないような場合は、専門医を受診してみましょう。
また、以下では東洋医学での考え方から不眠の原因を探っていきます。違ったアプローチの方法が発見できるかもしてないので、もしご興味があれば、ご一読ください。
では、東洋医学での不眠の考え方について見ていきましょう。
漢方医学での不眠の考え方
東洋医学では精神の不調が肉体に影響を及ぼすと考えられています。
もしくは、肉体の不調が精神的な不調をもたらす、というように精神と肉体は密接な関係にあると考えられています。
つまり、肉体と精神を別々に考えず、同様にとらえているのです。
例えば、思い悩むことで脾(ひ)の働きが低下し、食欲不振などの症状があらわれます。
このように、感情の起伏によって、五臓六腑の働きが乱れ、身体に不調があらわれるのです。
以上のような考え方を不眠にあてはめると、肉体面では臓腑、具体的には「心・肝・脾」が関係しています。
また、精神面では「五神(ごしん)」と言われる精神活動が関係していると考えられています。
まずは、五神について見ていきましょう。
精神活動に関わる五神とは
精神活動は5種類に分けられ、それらを「五神」と言い、「神(しん)」「魂(こん)」「魄(はく)」「意(い)」「志(し)」の5つが存在します。
- 神は五臓のうち心に収まり、すべての精神活動の中心となり、身体のあらゆる活動を支配しています。
- 魂は五臓のうち肝に収まり、評価や判断、思索などの精神活動を行います。
- 魄は五臓のうち肺に収まり、感覚・運動・情志などの精神活動を行います。
- 意は五臓のうち脾に収まり、思考・記憶・推測などの精神活動を行います。
- 志は五臓のうち腎に収まり、思考や記憶の保存・維持などの精神活動を行います。
このように、五心が五臓に収まることで、精神活動と肉体に密接な関係が生じてくるのです。
では次に、不眠と関係していると言われる臓腑「心・肝・脾」について見ていきましょう。
生命の根本を担う「心」とは
不眠と関係が深いとされる「心」は、生命の根本を担う臓腑です。
また、血を全身に送る働きを持ち、精神活動の中心を担っていると考えられています。
「心」は血によって養われているので、もし、心を養う血が不足した場合は、機能低下を起こし、神にも影響を及ぼしてしまいます。
神に不調が起きることで、気分が落ち着かなくなったり、寝つきが悪くなったり、驚きやすくなったり、不眠や睡眠障害、記憶力の低下などの症状があらわれることになるのです。
このように、「心」に血が不足した状態を「心血虚(しんけっきょ)」と言い、心血虚を改善する漢方薬として、
心血を補う「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」や
心血虚による精神不安を改善する「甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)」などが使われます。
疏泄(そせつ)作用、蔵血(ぞうけつ)作用を持つ「肝」とは
次は「肝」についてみていきましょう。肝には「疏泄作用」と「蔵血作用」があります。
疏泄作用とは、情志活動(感情の動き)や気血水の運行がスムーズになるよう調整する働きのことを指します。
蔵血作用とは血の貯蔵と血流量の調整を行います。
日中活動している間は全身に血が巡るように血流量を増やし、反対に夜心身が休まると、血が肝に還流し貯蔵されることで、全身への血流量が低下します。
この肝血が不足すると、肝の機能低下が生じ「肝血虚(かんけっきょ)」と言う状態を引き起こします。
そして、肝血虚が心に影響を及ぼした場合、心血虚につながり、不眠などの症状があらわれることになるのです。
肝血虚の改善には「四物湯(しもつとう)」など血虚に用いられる漢方薬が使用されます。
4つの作用をもつ「脾」とは
そして、最後の不眠に関係する臓腑は「脾」です。
脾は以下の4つの作用を持ちます。
- 胃の作用を補助する働き
- 運化作用、飲食物から身体にとって必要なもの(水穀の精微)を取り込む作用
- 昇清作用、水穀の精微(すいこくのせいび)を身体の上部まで運び上げる作用
- 統血作用、血が脈外にあふれることを防ぐ作用
脾と思考は深く関連しているので、思い悩むことで脾にダメージが加わります。
ダメージを受けた脾が機能低下を起こせば、運化作用や昇清作用にも影響を及ぼします。
それによって、消化吸収に異常が生じ、水穀の精微から作られる気・血の生成がされず、水の運行にも停滞が生じることになるのです。
脾の機能低下により気が不足すれば、「脾気虚(ひききょ)」となり、全身の倦怠感があらわれ、無気力状態となります。
それに加えて、昇清作用の低下で気血などの栄養分が身体の上部へ送られなくなるのです。
また、思い悩むことは心にも影響するため、脾気虚と心血虚は併発しやすく、このような状態を「心脾両虚(しんぴりょうきょ)」と呼びます。
心脾両虚を改善するためには「加味帰脾湯(かみきひとう)」などの漢方薬が使われます。
まとめ
以上不眠について解説してきました。
漢方医学では、精神と肉体は密接な関係にあり、精神状態が肉体にも影響を及ぼすと考えられています。
精神活動の不調により、「心・肝・脾」に不調が生じ、その不調が不眠の症状を引き起こす原因にもなります。
このように、精神や肉体の不調によって生じた臓腑の機能低下などの原因があって、その結果引き起こされた症状が不眠であると考えることができるのです。
その対処方法としては、不眠の原因である「心・肝・脾」の不調を改善する漢方薬を使うことになります。
不眠がなかなか改善しないという方は、漢方医学(東洋医学)的なアプローチからも、試してみてはいかがでしょうか。