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鍼灸治療の効果と役割について 自然治癒力を高める鍼灸治療の魅力
鍼灸治療といえば「腰痛や肩こり、頭痛に効く」というイメージにとどまる方が多いのではないでしょうか。
鍼灸治療は、人間に本来備わっている自然治癒力を最大限に高め、「病気になった時は」もちろんのこと「病気にならない健康的な生活」や「病気の予防」を主な目的とした治療法です。
痛みをほとんど感じることのない、髪の毛程度の細さの鍼や体の中に鍼は刺し入れず、皮膚表面から摩擦や押圧などして、体の調子を整える鍉鍼(ていしん)、体に温熱刺激を与える灸で身体の特定の経穴(ツボ)に刺激し治療します。
最近では1997年にアメリカの国立衛生研究所(NIH)が、2002年には世界保健機構(WHO)が有効性を認めたことで世界の注目が集まっています。
また日本でも、西洋医学だけで対処できない現代のさまざまな病気に対して、鍼灸治療を取り入れた医療が進められています。
今回は、鍼灸治療の考え方と役割、効果についてご紹介します。
鍼灸治療の考え方
西洋医学では「病気になった時」に病気の原因に直接アプローチし、その原因を除去することで病気を治療するという方法をとります。
東洋医学では病気は体全体のバランスが崩れていることが原因と考え、人が本来持つ自然治癒力を最大限に引き上げ、そのバランスを自然治癒力により戻すことができれば「病気は治り」「病気も予防ができる」と考えています。
鍼灸を含む東洋医学の基本的な考え方として、体全体のバランス=「気・血・水」のバランスが保たれている状態が健康状態であり、バランスが崩れることで症状がでると考えています。
鍼灸治療は、気・血・水のバランスの崩れ方によって治療法が定められており、2000以上のツボを症状によって使い分ける治療をします。
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「気」とは、体内を流れるエネルギーのことで、元気や気力の『気』という意味をもちます。
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「血」とは、文字通り血液のこと。血液が循環して全身に栄養を運び、潤いを与えます。
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「水」とは、血液以外の体内にあるリンパ液やその他の水分のこと。消化や排泄に影響するほか、臓器をスムーズに働かせる潤滑油のような作用もあります。
このうち、「気・血」が体内を巡るための通り道のことを「経路」と呼び、「経穴(ツボ)」の集合体にあたります。
鍼灸治療では、経路上の各所に点在している経穴(ツボ)に鍼や灸で治療することで、滞った気・血の流れをスムーズし、自然治癒力を高めることで、病気を根本から改善する治療を行います。
鍼灸の役割と効果について
鍼灸の効果が出る仕組みのメカニズムの詳細は、すべて明らかになっているとは言えませんが、1979年にはWHOは鍼灸治療の適応疾患43疾患を発表し、1997年にはアメリカの国立衛生研究所(NIH)が、2002年には世界保健機構(WHO)が有効性を認め、日本でも2001年には大学病院の教育に東洋医学が取り入れられるようになるなど、もはや民間療法ではない正式な医療としての役割の重要性は高まっています。
その要因には、西洋医学の考え方があります。
西洋医学は、病気の原因である細菌やウィルスに直接アプローチし、病気を治療することを得意としており、現代社会特有のストレス、自律神経失調症などの精神的疾患、アレルギー、慢性疲労等、原因の特定できていない疾患は、原因がわからない為に、治療方法も確立されていないことも多くあります。
鍼灸治療は「身体の免疫力を高める」ことにより、原因がはっきりしない症状や慢性的な症状に効果があるとされており、また西洋医学よりも副作用が少ないことから、従来の「肩こり、腰痛」といった治療にとどまることなく、頭痛、風邪、胃腸の病気、下痢・便秘、冷え性、耳鼻科の病気や、ストレス、自律神経失調症などの精神的疾患、生理痛などの婦人科系疾患等に、鍼灸治療に取り入れる医療機関も年々増えています。
次に鍼灸治療の効果についてご紹介します。
鍼灸治療の主な効果
主な鍼灸治療の効果としては、「機能調整作用」・「血行促進作用」・「鎮痛作用」・「免疫力の活性化作用」があります。
機能調整作用
機能が低下しているものに対しては足りないものを補うことにより、興奮作用を与え機能低下を改善させていきます。
逆に過度に興奮してしまっているものに対しては、落ち着かせるように働きかけ鎮静作用を促します。
血行促進作用
主に血液や体温を患部に誘導したり、患部からほかの部分に移動させる作用があります。
いわゆる肩こりの症状や足の冷えの症状には血液の流れが非常に重要になってきます。
鍼灸治療には、こういった血液循環を改善させる効果があります。
鎮痛作用
鍼灸治療を行うことにより痛みを抑制する物質が脳内から出ることや、神経に働きかけることにより痛みの抑制効果が期待できます。
免疫力の活性化作用
免疫に関係している体内の細胞を増やす効果のある白血球を増やすことで、生体防御機能が高め、体全体の免疫機能を活性化させる効果があり、また脳内の視床下部というホルモンの分泌に大きく関与している部分に作用することにより、免疫が上がると考えられています。
鍼灸治療に期待される今後の役割
日本は先進欧米諸国に比べて鍼灸治療の医療への活用が遅れをとっています。
日本の現状をみると、鍼灸を治療手段として活用できていないのが現状のようです。
アメリカは公的医療制度がない国ですが、西洋医学にくらべて医療費のコストが安い鍼灸治療を日常的に選択するようになっており、イギリス、ドイツ、イタリアなどのヨーロッパでも鍼灸治療は盛んで、健康保険制度でも積極的に取り入れられていますが、日本では健康保険が適用できる鍼灸治療の症状は、6種類に限定されているのが現状です。
しかし日本でも、西洋医学と鍼灸治療などの東洋医学を融合し患者を治療する「統合医療」の取り組みや鍼灸の特性を生かした治療で、スポーツ領域、高齢者領域、美容領域等の様々な医療の場面での促進が始まっています。
東洋医学と西洋医学の統合治療
明治以降の日本の医療において、西洋医学が中心となっているのが現状ですが、近年時代とともに社会環境が大きく変化し、生活環境も変化したことで、「現代特有の病気」と言われる精神疾患や慢性疾患等が増加してきています。
これらの現代社会に対応できる医療として、病気の治療にとどまらず、患者の心の状態や生活の環境など、幅広く考慮することが求められ、西洋医学の特定の部位や疾患の原因を治療する考え方と東洋医学の自然治癒力を高め病気の原因を治療する考え方の中から、個々の患者にとって最適な治療法を用いて、治療・予防に向けて統合的にアプローチする『統合医療』に徐々に注目が集まっています。
さまざまな場面で活躍する鍼灸治療
美容鍼灸
お顔のツボや筋肉に鍼を打つことで、血流をよくして表情筋を若く保ち、肌組織を改善させる美容方法です。
スポーツ鍼灸
それぞれの競技特性を把握しながら、スポーツ障害の治療やケガの予防、コンディションを整える改善する為に行われる治療です。野球、サッカー、水泳、バレー、バスケットボール、陸上、ラグビー等、日本だけでなく海外でも多く取り入れられています。
婦人科系疾患の鍼灸
ホルモンバランスの乱れによる更年期障害・生理痛・月経不順・冷え性等の症状に対し、自律神経バランスを整える治療します。
WHOが有効性を認めた主な疾患
神経系疾患
神経痛・神経麻痺・痙攣・脳卒中後遺症・自律神経失調症・頭痛・めまい・不眠・神経症・ノイローゼ・ヒステリー
運動器系疾患
関節炎・リウマチ・頚肩腕症候群・頚椎捻挫後遺症・五十肩・腱鞘炎・腰痛・外傷の後遺症(骨折、打撲、むちうち、捻挫)
循環器系疾患
心臓神経症・動脈硬化症・高血圧低血圧症・動悸・息切れ
呼吸器系疾患
気管支炎・喘息・風邪および予防
消化器系疾患
胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)・胆嚢炎・肝機能障害・肝炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾
代謝内分秘系疾患
バセドウ氏病・糖尿病・痛風・脚気・貧血
生殖、泌尿器系疾患
膀胱炎・尿道炎・性機能障害・尿閉・腎炎・前立腺肥大・陰萎
婦人科系疾患
更年期障害・乳腺炎・白帯下・生理痛・月経不順・冷え性・血の道・不妊
耳鼻咽喉科系疾患
中耳炎・耳鳴・難聴・メニエル氏病・鼻出血・鼻炎・ちくのう・咽喉頭炎・へんとう炎
眼科系疾患
眼精疲労・仮性近視・結膜炎・疲れ目・かすみ目・ものもらい
小児科疾患
小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、消化不良、偏食、食欲不振、不眠)・小児喘息・アレルギー性湿疹・耳下腺炎・夜尿症・虚弱体質の改善
まとめ
今回は、鍼灸治療について鍼灸治療の考え方や役割等についてご紹介しました。
西洋医学に比べ治療法や効果が知られていない鍼灸治療ですが、鍼灸治療の歴史は大変深く、紀元前の中国ではすでに鍼治療が広く流行したという文献も残っており、約2000年以上の長い歴史がある伝統医学です。
最近体調が思わしくない、病院で治療しているが思うような効果がないと感じている人は、自然治癒力を最大限に高め、病気を治すだけでなく、病気にならない体を作ることを主な目的とした鍼灸治療を生活に取り入れ、効果を実感してみてはいかがでしょうか。